
歌唱共通教材とは?
学習指導要領によると
歌唱共通教材について、平成29年に告示された【音楽編】中学校学習指導要領では以下のように示されています。
我が国で長く歌われ親しまれている歌曲のうち,我が国の自然や四季の美しさを感じ取れるもの又は我が国の文化や日本語のもつ美しさを味わえるもの。なお,各学年において,以下の共通教材の中から1曲以上を含めること。
「赤とんぼ」 三木露風作詞 山田耕筰作曲
「荒城の月」 土井晩翠作詞 滝廉太郎作曲
「早春賦」 吉丸一昌作詞 中田 章作曲
「夏の思い出」 江間章子作詞 中田喜直作曲
「花」 武島羽衣作詞 滝廉太郎作曲
「花の街」 江間章子作詞 團伊玖磨作曲
「浜辺の歌」 林古溪作詞 成田為三作曲
要するに、伝統的な歌唱曲に親しみ、今後も歌い継いでいくために、1年に1回は上記7曲の中から1曲を授業の中で扱おう!ということですね。
以前は学年ごとに曲が割り当てられていましたが、新しい学習指導要領では、どの学年でどの曲を扱っても良いこととなっています。
また、義務教育諸学校教科用図書検定基準でも、
中学校学習指導要領第2章第5節の第3「指導計画の作成と内容の取扱い」の2の(2)のアの(ウ)に示す歌唱教材としての「共通教材」は、3学年間にすべて取り上げていること。
とあるように、教科書を作る際に歌唱共通教材は全て取り上げなければいけないけれど、その時期までは指定されていません。
とは言っても、教科書によって、扱う学年は異なるので、自身の学校が使用している教科書を確認し、どの歌唱共通教材をどのタイミングで取り上げるかを考える必要があります。
以下に、各教材の教育芸術社(教芸)と教育出版(教出)での掲載学年を一覧にまとめたものを載せておくので、よければ参考にしてみてください。
歌唱共通教材一覧
曲名 | 教芸 | 教出 |
赤とんぼ | 1年 | 1年 |
荒城の月 | 2年 | 3年 |
早春賦 | 3年 | 2年 |
夏の思い出 | 2年 | 1年 |
花 | 3年 | 3年 |
花の街 | 3年 | 2年 |
浜辺の歌 | 1年 | 2年 |
表を見て分かる通り、各教材を扱う時期は出版社によって異なるので、異動の際などは注意する必要がありそうですね。
さて、歌唱共通教材について簡単にご説明しましたが、先生方が気になるのはそれぞれの曲をどのように指導すべきかではないでしょうか。
そこで、次項では歌唱共通教材を指導する際に私が意識していたポイントと授業例をご紹介します。
歌唱共通教材のポイントと授業例
教材研究の際に意識すること
まずは、全ての曲に共通することとして、私が教材研究の際に特に意識していたことをご紹介します。
歌曲は、以下の6つの要素を生かして曲にふさわしい表現を工夫することが大切なので、教材研究でもまずはこれらを掘り下げます。
・曲想(拍子や速度、調、伴奏等)
・歌詞と旋律との関係
・演奏記号
・作曲背景
・作詞者や作曲者の思い
中でも作詞者や作曲者に関すること、曲が作られた背景となる歴史や文化については、作者の思いを理解する手掛かりとなるので、私は特に重要視していました。
ですが、こうした歴史には正解がないので、「~という説がある」程度に留めておくのがいいかもしれません。
それでも作者の思いや意図を生かした表現のヒントにはなり得ます。
上記5つの要素とその関わり合いを探求したのち、授業の展開を考えるというのが教材研究のおおよその流れです。

-
音楽の教材研究は何をすればいい?具体的な方法(進め方や着眼点)
続きを見る
各教材のポイントと授業実践例
それでは、ここからはより具体的に、各教材を授業で扱う際のポイントとnoteで公開中の授業実践例をご紹介します。
赤とんぼ
曲の基本事項
- 三木露風作詞/山田耕筰作曲
- 4分の3拍子
- ♩=58~63くらいの速さ
- 変ホ長調
ある夕焼けの空に赤とんぼを見たことから幼少期のことを思い出し懐かしむ様子を、日本語の語感を生かした旋律で美しく表現した曲です。
したがって、授業で扱う際には、
ことを目標にしたいですね。
私は、「浜辺の歌」との比較を通して、拍子が生み出す雰囲気の違いを感じさせる授業を行っていました。
荒城の月
曲の基本事項
- 土井晩翠作詞/滝廉太郎作曲
- 4分の4拍子
- ♩=63~76くらいの速さ
- ロ短調
世の中の儚さを哀愁漂う旋律で表現した日本の名曲で、歌唱共通教材の中では唯一の短調です。
「荒城の月」のポイントはこちらの記事でより詳細に解説していますので、ぜひ合わせてご覧ください。
-
「荒城の月」歌詞の意味や作曲背景などのポイントを総まとめ!
続きを見る
授業で扱う際には、
ことを目標に展開し、ぜひ原曲と編曲版との比較も取り入れたいですね。
早春賦
曲の基本事項
- 吉丸一昌作詞/中田章作曲
- 8分の6拍子
- ♪=116くらいの速さ
- 変ホ長調
春を待ちわびる様子をなめらかで美しい旋律で表現した曲です。
「早春賦」のポイントはこちらの記事でより詳細に解説していますので、ぜひ合わせてご覧ください。
-
「早春賦」歌詞の意味や作曲背景などポイント総まとめ!
続きを見る
私がこの曲を授業で扱う際は、
ことを目標にしていました。
夏の思い出
曲の基本事項
- 江間章子作詞/中田喜直作曲
- 4分の4拍子
- ♩=63くらいの速さ
- ニ長調
夏の日の尾瀬の情景に思いを馳せ、懐かしや、もう訪れることのできない寂しさを叙情的な旋律で表現した曲です。
私がこの曲を授業で扱う際は、
ことを目標にしていました。
花
曲の基本事項
- 武島羽衣作詞/滝廉太郎作曲
- 4分の4拍子
- ♩=60~66くらいの速さ
- ト長調
春の隅田川の情景を優美な旋律で表現した曲で、歌唱共通教材の中では唯一、二部合唱です。
また、歌詞には昔ながらの言い回しや言葉が多く使われているので、授業ではまず歌詞の読解を行うことが大切です。(歌詞の意味はこちら)
-
「花」(滝廉太郎作曲)の歌詞の意味を分かりやすく解説!
続きを見る
ゆえに、授業でこの曲を扱う際は
ことを目標に展開するのがおすすめです。
花の街
曲の基本事項
- 江間章子作詞/團伊玖磨作曲
- 4分の2拍子
- ♩=72~84くらいの速さ
- ヘ長調
戦後間もない頃に作られた復興ソングで、1番と2番は作者の理想の街並み、3番では戦争で傷付いた街や人々の様子をうたっています。
私は、3番に焦点を当て、
ことを目標に授業を展開していました。
浜辺の歌
曲の基本事項
- 林古溪作詞/成田為三作曲
- 8分の6拍子
- ♪=104~112くらいの速さ
- ヘ長調
浜辺を散策して思い出される情景を、波の様子を表した伴奏に乗せて歌う叙情的な曲です。
前述の通り、私は
ことを目標に、「赤とんぼ」と同時並行で授業を進めていました。
まとめ
さて、この記事では歌唱共通教材のポイントと授業実践例をご紹介しました。
歌唱共通教材だからと言って特別なことはありませんが、それぞれに特徴や気付かせたいポイントがあります。
教材研究を丁寧に行い、各教材の良さを生かした授業を計画しましょう。